事務員の七重のことばが心に響きました。
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なにかこう、わりにあわないような気がしたものです。
もしもあのとき百瀬先生がこちらの弁護士だったら、こちらじゃなくてあちらの弁護士だったとしても、なにかこう、救いみたいなものがあったんじゃないかと思ったりしますよ。
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そう、私の今の人生も、妹や、何よりも毒叔母の件、仕方がないとわかっていても、わりにあわない。「わりにあわない」というこの言葉がピッタリくる気がしました。もう忘れるしかない、現状の中でしっかり生きるしかないのだけれど、何で現実って、世の中って、ずるい者勝ちなのかなー、納得できないなーという気持ちに時々なるわけです。
うん、私は救いが欲しかったのねーって、このセリフを読んで思いました。
エピソードの一つ一つがそれぞれおもしろかったです。特に霊柩車泥棒の件はちょっとミステリーも入っていて先の展開が気になり、どんどん読み進んでしまいました。寝る前に少しずつ読もうと思っていたのに気が付けば深夜の3時、結局二日間で読んでしまいました。最初はあちこちにばらけていたエピソードが徐々につながっていき、予想外の結末へ向かって行く。正確には途中である程度の予測はつく展開なのですが、でもそれがどういう形で結論に落ち着くのか自分の予想とは少しずつ異なり、終盤は結末に向かって一気に読み進めてしまいました。せっかくいれていたコーヒーを飲む動作すら読む作業を一瞬中断してしまうので飲まないまま、コーヒーがさめてしまったほどでした。最後の最後に主人公が猫弁とならざるをえなくなった裁判の内容が語られます。読み手が気になったエピソード、作者が広げた風呂敷を各エピソード、それぞれきっちり収めたすっきりした結末でした。
他には、意外だった登場人物との展開にホロッと涙がでたりして、何だかとても温かい気持ちになる本でした。読後感がいいです。
作者が言っていた「読むとあたたかい気持ちになって、元気が出る」まさにその通りの作品でした。
私も誰かをあたたかい気持ちにできて、元気にしてあげられる人間になれたら、何て素直に思わせてくれる物語でした。
◇ 印象に残ったところ
・万事休すの時は上を見なさい。すると脳がうしろにかたよって、頭蓋骨と前頭葉の間にすきまができる。そのすきまから新しいアイデアが浮かぶのよ。
・秦野という男は、相手が怒ると右に逃げ、相手が我慢する限り左を主張するような、常に逃げ道を確保している。そんな如才なさがある。百瀬はそういう相手に対してはただもうしゃべらせて、自分は生返事をすると決めている。
・足元は人生の土台をつくる。
・あなたのあの弁論から、法廷の空気ががらっと変わってゆくのを感じました。
・困った時は上を見ろ。
・泣かないおまじない。
猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫) 大山 淳子
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